芳文社 2010年
人にはそれぞれに自分だけの考え方の筋道があって、同じ局面に対して同じ行動をとるわけではない。
それでも、日常的な瑣末なことに関してはだいたいの方向があって、それが世の中の「常識」と呼ばれている。
いつもこの常識からはずれた行動をしてしまうことが多く、それに対して自覚がある人は「
変人」、自覚がない人は「
天然」、自覚があるなしにかかわらず、社会常識から大きくはずれている人は「
不思議ちゃん」、さらに社会生活に支障をきたすほど奇怪な行動をとる人は精神科の領域になる。
私もこれまでの人生で「不思議ちゃん」を何人か見てきましたが、なにが不思議って、不思議ちゃんって必ず彼氏(パートナー)がいるんだよね。
よくこんな不思議な人と付き合えるなーと思うんだけど、不思議ちゃんがツボな人っているのよねきっと。
ということを考えてしまった、依田さんの新刊。
商店街の茶舗の跡取り息子、若葉は30歳になるのに、人付き合いが全くダメ。
商売はできてるので、社会性はあり世間とも折り合っているのだが、恋愛感情に関してKYというか、理解不可能になると自分の中に引きこもって、相手を傷つけても全然わからない人。
結果的にものすごい無神経な奴なんだけど、彼には彼の考え方・行動の論理があって世界が回っている・・・ま、それがパーソナリティというものだ。
そんな若葉を、年下の編集者・吉川が、直球で口説きに口説く話・・・と説明すれば、単純にラブコメなんだけど面白いのは、依田さんが人のパーソナリティを掘り下げて描くのがとても上手いからだ。
それで「
真夜中を駆け抜ける」の土谷昇氏のことなんですけど。
昇は、掃除好きで潔癖症の若葉とはまるで反対の、片付けられない男だけれど、ちょっと他人には理解が及ばないほど神経質なところがあって、それが本人自身も苦しめている。
潔癖だけど鈍感、神経質だけど掃除ができない・・・それが人間の面白さだよね。
依田さんって、昇と若葉を足して2で割ったような人なんじゃないなと、ふと思った。
そうじゃなければ、予告出してフェアまでやって、連載をまとめるだけの単行本を3年も中止にしたままにしておくなんて、普通はできない。
人から見たらどちでもいいようなことに、執ようにこだわるから多作はできない。
けれど完成度は常に高く、どの作品も何回読んでも新しい発見がある。
結局、「よろめき番長」ってなんのことなのか、「
美しく燃える森」の何が問題で発売延期になったのかわからないのと同じように不明なのだが、面白くて
満足度100%だったことには変わりない。