ルチル文庫2010年(アイスノベルズ2005年の文庫化)
議員秘書×幼なじみ
知的障害のある子の話なのかと思って読み始めたけど、これはちょっと違うんじゃないかと。
睦(むつみ)は確かに極端に勉強ができず年齢よりずっと幼い言動をとるけれど、子供の自己中心的でワガママなところもなく、問題行動も起こさないし、対人関係も築けている。
睦は、人が大人になるにつれて失っていくものをずっと持ち続けているピュアな存在の象徴で、砂原さんの作品の「言ノ葉ノ花」とか、「15センチメートル未満の恋」のような、寓話系の話だと思う。
幼稚園のときからずっと、睦は卵焼きと変身ヒーローとふかふかのタオルとお隣のクルちゃんが大好き。
クルちゃんことお隣の優等生、来栖(くるす)は、「普通の子供ではない」睦をいつも守ってきた幼なじみである。
優等生と劣等生という組み合わせは、BLでは定番のカップリングだが、どちらかというと劣等生が優等生に対して引け目をかんじてグルグルするパターンが多いような気がする(それは崎谷はるひだけ?)
しかし嘘も駆け引きも持たない睦は、ただひたすらクルちゃんが大好きで、誰にでも「クルちゃんが好き!」と言う。
そんな睦から高校卒業と同時に逃げ出した来栖と、8年後に東京で再会して同居に至るまでの長い話は、睦視点と来栖視点が交互にあるが、これはやっぱり、来栖の物語なのではないかと私は思う。
中学生で自分は養子だったと知り、人格者だった父親を越える人間にならねばといつも無理をしている来栖の、失ってきた自分の魂の片割れが睦という幼なじみなのだ。
睦が自分を好きなことはよくわかっている。
自分も睦が好きだけど、だからといってどうにもならないと逃げ腰の来栖は、仔犬のように健気に追いかけてくる睦を突き放したり追いすがったり態度が一貫しない。
議員秘書からいずれ政界に出る・・・というキャリアプランも迷いばかり。
大人になっても迷子の来栖に、まっすぐな道を示してくれるのは、嘘を言わない幼なじみの存在だった。
睦は、普通じゃないけど陰湿なイジメにあっているわけでもなく、両親に愛され、いい友達もいる。
ひたすら来栖を慕い続けるところはせつないけれど、「かわいそうな話」ではない。
結局、睦はとてもいい子でみんなに愛されている・・・敵役のお嬢様にまで仕事を紹介してもらってるし。
キワモノかと思ったら、意外にのほほんとしたいい話だった。
エッチはちょっとしたショタ風味になっていますが・・・それもカワイイ。