【剛しいら・箱入り3題】
『愛玩人形』 ルナノベルズ2010年
実業家(32)×人形作家(23)
剛しいらの書く「
箱入り息子」ものが大好きなのだー(大声)。
「箱入り」のバリエーションもいろいろで、文字どおり良家の御曹司として、社長の息子として、老舗の跡取りとして、一国の王子として、あるいは普通の家庭だけどオクテでおっとり育った
純情ヒロインが、大人の男(たまに強引な年下)に出会って、恋に落ち、箱から出て行く・・・。
巨匠なら、このパターンであと100冊くらい書けるはずです。
『愛玩人形』はお得意の「人形師もの」だけど、妖しさ路線ではなく、どっちかというと異文化遭遇恋愛もの?
琴耶(ことや)は華族の末裔でもある裕福な名家の一人息子なのに、社会でバリバリ働いているのは姉たちで、家業は婿たちが継ぎ、自分は実家のアトリエに引きこもって人形作りをしている。
心開く相手は人形たちだけという、一歩間違えれば「キモオタ」だけれど、そこはもちろん類い稀なる美青年、良家で大切にされておっとりと生きている。
そんな彼を見つけてしまったフランス人実業家ジェラールは、ゲイで、日本の男色文化研究家、コレクターでもある。
「日本はかつて世界一の男色文化国家だったんだ。能役者も歌舞伎役者も、権力を持つ男たちに当然のように愛玩された。武士たちは自分の部下である若者、小姓を寝室に引きずり込む。それを咎められることおはなく、むしろ契った相手に命を捧げることは、最高の美徳とされていたんだよ」
と薀蓄をたれながら、口説きまくる。
この言葉を惜しまず、相手を賞賛しまくり愛を語りまくるジェラールのプローチを、フランス人らしい・・・と思うところも日本人的な誤解なのかもしれないが、恋愛に不慣れすぎて、はっきり意思表示できず、流されてしまう琴耶の態度を、ジェラールが「日本人は神秘的だ・・・」と誤解するところもおかしい。
しかし、世間知らずの琴耶でも、ジェラールに拉致されるように家から連れ出されると、毅然として自分の条件を出して対等に渡り合うところは、さすが良家の嫡男。
その後、琴耶が家業から遠ざけられていた理由が明らかになり、日本マニアのフランス人と浮世離れした日本人は、徐々にお互いを理解しあい、よきパートナーとなってパリで新生活を始める・・・。
数ある「箱入り」もの中でも、露骨に口説かれても全く気付かず、キスされてもボーっとしてるような琴耶はかなりハイレベルな箱入りで、お気に入りです。
『煌めきは貴族を陥れる』ダリア文庫2010年
男爵(26)×侯爵(26)
父の死によって、26歳の若さで侯爵を継いだアーネスト。
十九世紀末のイギリス貴族社会の話である。
アーネストは、侯爵を継ぐもの、貴族たるもの、紳士として「こうあらねばならぬ」という規範にがんじがらめになっている。
ある日、パブリックスクールの同級生だったダニエルが突然訪ねてきて、自分は死んだ侯爵の愛人だったと主張してアーネストを脅す。
貴族社会そのものが変わりつつある時代を背景に、新しい世界で自由に生きるダニエルが、アーネストを縛る古い鎖を切り、2人はインドに旅立つ。
アーネストは、純潔を守っていたが、実は「女がダメ」という秘密を持っている。
そこをダニエルにつけ込まれたわけだが・・・そういううかつなところがまた「箱入り」の醍醐味。
この人は、ダリアの「紅茶シリーズ」に出てくる紅茶王の先祖という設定になっている。
『匣男』プラチナ文庫2010年
秘書(26)×副社長(26)
極めつきの「箱入り」が、いつも狭い箱の中に隠れていたい風宮(ふみや)。
クローゼットとか机の下とか、狭いところに入っていないと性的な快感を得られない特殊な体質である。
「箱入り息子」とはちょっと意味が違うけど、財閥の跡取り子息で、事業を継ぐことが決まっている抑圧が、子供の頃から狭い納戸の中に隠れる性癖を作ったらしい。
そんな風宮を箱入りのまま愛する祐一朗は、風宮を閉じ込めて独占したい執着攻め。
箱から出すどころか、より快適な箱を提供して風宮を一生独り占めにするという、コワイ話。
剛しいらのやや耽美路線でした。