ビーボーイノベルズ2009年
教え子×教師
今年の高校のクラス会で、20代で亡くなったクラスメイトの写真を誰かが持ってきて、女子全員「Kくんてこんな美少年だったっけ?!」「佐藤○に似てる・・・」と騒然となった。
クラスで「美少年」と言われてモテモテだった男子はほかにいて、Kくんは全然目立たない、ほとんどの女子の記憶に残っていないような人だったのに、ウン十年たってみるとキラキラの美少年だったといのはどういう魔法なのか・・・なぜ当時誰も気付かなかったのか。
もし今の自分の精神のままで、高校時代に戻れたら・・・ということは、たまに空想してみることがある。
今の自分の目だったら、Kくんの美少年ぶりに誰よりも先に気がついて・・・でも、30前に病気で死ぬってことがわかっていてお付き合いするのは悲しすぎる・・・。
いわゆるタイムスリップもの。
31歳の弁護士が、高校時代の担任の通夜の帰りに交通事故に遭って14年タイムスリップ、高校2年に戻ってしまう・・・という話を、コメディで書くという選択肢もあったんじゃないかと思うけど、今回はシリアスです。
記憶喪失で肉体が大人のまま精神が退行する話もよくあるが、これは逆で、入れ物が若いのに中身が大人・・・エダさんらしい芸の細かさで、17歳の肉体に31歳の精神が入ることの不自由さを描く。
当時24歳の新米教師だった曽根は、31歳の弁護士である久我山から見ると、頼りない若造なのだが、曽根にとっての久我山はあくまで未成年の教え子。そんなねじれた関係の、年上なのに年下の曽根に、31歳の精神で再会した久我山が恋をする・・・初めての恋を。
そして14年後、借金を苦に自殺する曽根を、高校生に戻った久我山は救うことができるのか?というSF仕立てになっている。
この「寓話」は、いろんな読み方ができると思う。
自己中心的で自分のことしか考えられない幼稚な大人がもう一度、高校生からやり直してみる、という話。
高校生が大人より繊細というのは嘘で、無知で鈍感な生き物はいろんなことを見落としている、とか。
17歳のときは理解できなかった他人の美点に、30過ぎた分別を持ってみれば気付くことができる・・・とか。
甘くないロマンチックファンタジーでした。