「青鯉」「星のもとで君が」「デリート」(短編集)
SHYノベルズ 2007年
これをBLとして出すSHYノベルズって・・・かなり豪胆だと思う。
崎谷はるひの「少年人形」を出したきもやるなーと思いましたが、BLレーベルだからここまでってことにしましょう、というボーダーが感じられない。
ボリュームや装丁も変幻自在だし・・・やっぱりエロ本屋特有の柔軟性を感じますね。
たけうちりうとの新刊、予告のあらすじを読んだときは「ファンタジー系?」って思ったけど、実際読んでみるとファンタジーと言うより文芸系? 「ボーイズラブ」の様式とは関係ない普通の(?)小説だなと感じた。
「青鯉」の主人公は、郊外の一戸建てに妻と娘と暮らしている平凡なサラリーマン。
だけどBL的に「オヤジ」とくくられる中年とも違う。妻と子どもとの日常生活に安住している普通の市民が(私の脳内映画化では役所広司がキャスティング)ある日突然、肉体が魚類化して水と「仲間」を求めずにはいられなくなる・・・。
もう一つの「デリート」は、吸血鬼・・・といってもまだ30代のグラフィックデザイナーで、助手をとっかえひっかえしてその生き血を飲みながら、自分の「天使」を探している。
全く別の話なんだけど、この二つは同じ話だと思った。
人はどこから来てどこに還って行くのだろう。
ということと、
人はこの世でただひとりのパートナーを生きてるうちに見つけられるものなのか?
とうことについての二つの寓話である。
「青鯉」では主人公は妻を捨ててパートナーを選びなおし、「デリート」ではこれまでの人生哲学を変更して、ただひとりのパートナーを選ぶ。そう考えると全く難解な話ではない。
妻と別れて・・・という話はBLにはあまりないけど、「デリート」は移り気な男が本気の相手を見つける話ととらえればBL的な展開で、もしかして「吸血鬼」というのは本人の単なる思い込み、気のせいなんじゃないかという気がする。
どちらもBL的な約束事からあまりに離れているので、BLを読みましたという気はあまりしない。ただ面白かったというかんじ。
1998年と2000年に小説JUNEに掲載された作品とのこと、やっぱりJUNEって最後まで文芸系だったんだなあ(だからつぶれた?)と思いました。