公認会計士(34)×大学院生(23)
ショコラノベルズ 1996年
山藍紫姫子を読んでからどうも調子が狂って、半端にシリアスなものが最後まで読めない・・・こういうときはバカバカしいやつで口直し。
公認会計士の艦方将(ふなかた・しょう)と美大の院生の裕樹(ゆうき)は同居3年。どこからどう見てもバカップルでその相思相愛ワールドは揺るぎがない。
艦方はそのルックスと公認会計士というステイタスが世間に抱くイメージどおりの「いい男」を演じるのに命をかけている見栄っ張り男。
その必死さがカッコ悪いんだけど愛すべき男ではある。そしてそんな恋人を「
ルネッサンス期の理想の男性像」といつも目を
はあとにしている裕樹もどこか世間ずれした不思議ちゃん。
そんな2人のずっこけた(←死語)日常のドタバタである1冊目は正直それほど面白くないんだけど、続編の『
艦方氏のさらなる苦悩』(1999年)で、その見栄っ張りゆえに友人の借金を背負い、豪華マンションの住人から一気に貧乏のどん底に転落するところから面白い。
こんな
金勘定に細かい話って読んだことない。
まず友人に融資する5000万・・・BL的金持ちのスケールでいうとそんなたいした金額じゃなさそうだが金に関してはどこまでも具体的でリアル。
マンションを6000万で売って残りのローンを相殺し、ベンツも売って郊外の築年数不明の家賃3万8000円のボロアパートに引越し、社員の夏のボーナス300万円のためにブランド品を質に入れる。
たいして苦労をしたことのない裕樹も、持ち前の素直さと艦方への愛で、「すて奥」もびっくりのやりくり技を見せる。ディスカウントショップで12ロール178円のトイレットペーパーを見つけて大喜びする・・・これはもうボーイズラブ小説じゃない。でも作者の本職はいったい何なの?と思うくらい、金の話がとっても面白いのだ。
たとえば、サラ金から借りるくらいなら質屋のほうがいいとは聞くがそれは具体的にどういうことかとか、中古ベンツの相場とか、いろいろためになるですよ。
一番感心したのは、いよいよ金に困ってアルバイトを考え始める裕樹に、大学の友達が近づいていわゆる
マルチ商法に勧誘されるところ。裕樹は世間知らずなので「なんていい話なんだ!」と慶び勇んで艦方に報告する。
すぐに状況を察した艦方は、裕樹を傷つけないようにかんで含めるようにマルチのカラクリを教えて裕樹の目をさまさせる。
東京の大学に進学予定の方は、ぜひここを読んでおいてもらいたいね。
なんかこう、BL作家として力の入れどころがずれてるんじゃないかという気もするけど・・・そうか、小林典雅ってこの系統の作家かもしれない、と思ったりもしました。