大学講師(36)×図書館司書(23)
オークラ出版アクアノベルズ 2003年
この人の本は1冊(『迷い猫』)読んで、悪くはないけどもう1冊というほどのインパクトはなくそのままになっていたのが、
mimuさんのブログで「京都」「図書館」「今市子」とマイ好物が3点セットになっている作品があることを知り、さっそく入手。
京都の古寺で偶然出会った名も知らぬ美青年と官能の一夜をすごし、朝になったら青年は消えていた・・・そして新しい職場で運命の再会・・・というよくある様式ながら、実にしっとりとしたいい話だった。
極端なのはこの発端だけで、再会した2人の間に大きな事件は起こらず、恋はゆっくりと育てられていく。恋の障害としては大学講師の大崎にアプローチする美人女子大生と、由岐也とよりを戻そうとする前の恋人だが、別に由岐也に一服盛ったり拉致したりするわけではなく、常識の範囲で行動し退場していく。
恋の最大の障害は、むしろ由岐也の臆病な性格・・・同性愛者であることのコンプレックスにセックスに対する恐怖が入り混じり、前の恋人とは性的交渉に至らずに別れ、そのことが由岐也を見知らぬ男性に身を投げ出すという極端な行動に走らせる。
大崎が素敵な大人で、京都での行動を恥じる由岐也に「まずは一から関係を構築したい」と提案し、慎重なアプローチで臆病な獲物をゆっくりと目覚めさせていく。
この大崎って人は本当に、稀に見る
くどき上手。
けしてがっついたところを見せず、何か月もかけて紳士的な態度で接しながら、ポイントでしっかりリードする強引さも持つ。その上で、
「わたしが守りたいもの、失いたくないものは、君だけなんだよ」
なーんて言われて陥落しない人間がいるだろうか。
36歳にしては、いかに仏教美術が専門といえ老成しすぎな気もするが、実は大崎もまた過去に大きな悲しみを抱えている。
「こんな苦しい思いをするくらいなら、いっそ自分こそ死んでしまいたいと思ったよ。でも、人というのは不思議でね。理由なく簡単に死ぬかと思えば、その反面、どんなに思いつめても簡単には死ねないものなんだな」
そんな人生の不条理を知る人だから、愛する者にやさしく、人生を大切に生きている・・・そして大崎にとっても人生再生の恋なのだとわかる。
クリスマスに読むのにふさわしい、静かに温かいラブストーリーでした。