派遣(25)×サラリーマン(25)
幻冬舎ルチル文庫 2006年
高校時代、クラスも部活も一緒で無二の親友だと思っていたのに、卒業と同時に一方的に縁を切られてしまった男・・・その理由がわからないまま8年。
真弓は社会人となった今も、そのことに傷ついていた。
その理由とは・・・BL的にはほとんど一つしかない。でしょ?
つまりこういう話は、読者と作者が、見えている同じ頂上を目指して登っていくようなもの。
いつどこでどういう風にお互いの本心が分かり合えるのか・・・この作家の場合、結末はスイートなハッピーエンド以外にありえないわけだから、そこにどの道筋を通ってたどり着くのかが、見どころなのである。
ヒロインの真弓は、OAサプライ会社の、都下の小さな営業所の営業という、リーマンとしてもかなり地味目の設定、そこにやってきた派遣社員として再会する井原は、実はマイナーながら小劇場の俳優という、極端に違う世界を背負わせている。
営業はかけずり回ってクレームに頭を下げまくってナンボの仕事、真弓はマイナーとはいえ人気商売の井原と比べてますます自信をなくす。
相変わらず鈍くて真面目で優等生で融通のきかない真弓・・・8年たって高校生から社会人になっても性格は変わらない。だけど8年の歳月が変えたものはやっぱりある。自分ではわかってないけど、理不尽な相手に頭を下げられるところで、真弓も「絵になる大人」に成長してるんだよね。
むしろ役者なんていう職業を選んだ井原のほうが、子供のままかもしれない。
高校時代、性的に早熟だった井原は、無防備に自分に懐く真弓を持て余して逃げてしまった・・・井原は優等生の真弓のためを思ってみたいなことを言うけど、実際はそういうことだったと考えるほうが自然でしょう。
8年たってもやっぱり逃げ出した井原をつかまえたのは、真弓の行動だった・・・伊達に営業やってない(そういう話じゃないけど)。
結末はわかっていても、どんな言葉でお互いに空白の8年を埋めるのか、そのセリフをいろいろに予想しながら読むのが楽しいのです。