学生(21)×塾講師(28)
キャラ文庫2008年
菱沢九月を久しぶりに読んだらすごくよかった。
あまりに久しぶりなんで、どんな小説を書く人だったっけと今「溺れる体温」を読み返し中です。
真面目で臆病な2人のスローな恋・・・といっても、一昔前のBLのようにくっつくまでに何巻も読まなくちゃ・・・というわけではなく、1冊の(文庫としては厚い)わりと前半で一緒のベッドに入るところまでは行くのだが・・・。
学習塾の講師、楓(かえで)と学生バイト講師の鴻島(こうじま)。
お互いに1年以上も片想いしていたのに、告白するなんて考えもせず、中学生の文通のようなメールのやりとりをしていた2人。
しかしナイスな当て馬くんのグッジョブのおかげで、鴻島が玉砕覚悟の告白してみたら、なーんだ両想いだったんだんじゃん、めでたしめでたし・・・そこで普通はさっそく最初の熱い場面になだれ込むと思うんだけど・・・(だって大人同士じゃん?)ここからがスローなんである。
「でも今日の今日で同衾なんて、僕は早すぎると思うんですけど」
・・・慎重というか臆病な楓。
でも鴻島も「待て」ができるお利口なワンコで、「何もしないから」と言って本当に何もしないで一緒に寝てしまう・・・こういうワンコも珍しい。
翌日もまだ
「でも昨日の今日で・・・」とか言ってる楓を、さすがに言いくるめて押し倒す鴻島。でも時間をかけてゆっくりと・・・。
幼くして両親を亡くし、祖父母を見送り、妹を嫁がせた楓は、若くしてすでに「やるべきことはやった」と終わっているような人生観の人で、惜しみなく人にやさしいが、本気で好きな相手には本心を見せないというやっかいなタイプ。
楓の最初の男である辻先輩の当て馬ぶりが冴えている。
こんなふうに昔の男が突然現れたらお利口なワンコもワンワン吠えるってものだろう。
自称芸術家の学習塾のオーナー、フランスに嫁いだ妹・・・脇役も際立っていて、真面目すぎる2人のスローな恋を盛り上げる。
地味なのに味わい深い1冊でした。