幻冬舎ルチル文庫 2009年
庭師(31)×御曹司(26)
この作品、実は一度リタイアしている。
BLビギナーだった私は、なぜかこの茅島ワールドに入れなかったのだが、遠野さんの中ではこれがいちばん好きと評価する人も多く、文庫版になったのを機にリベンジしてみた。
面白い・・・どうしてこの面白さを理解できなかったのだろう。
金持ちの話より貧乏話のほうが好き・・・というのもあるが、リーフノベルズという「入れ物」がマッチしてなかったのかも。
茅島氏は大学時代に両親を事故で亡くし、その莫大な資産を1人で相続した孤独な大金持ち。馬場まで備えたイギリス式庭園を擁する広大な屋敷に使用人を抱えて1人暮らし、無職である。
・・・そういう優雅な金持ちは日本には存在しない。相続税が・・・などと思ってはダメ。
これは現代の日本を舞台にしているようで、そうではない。ディズニーランドのようにお約束の「別の世界」の話なのだ。
こんどはすんなりアナザーワールドのゲートをくぐることができた。
一つ一つのお話は短い。茅島氏の優雅な一日を三人称で描くもの。茅島邸のお抱え庭師の一人称で描くもの。短いエピソードが時間軸をずらしながら重なり合って、変人と思われている茅島氏の
一途な恋が描かれる。
恋の相手である庭師にはなぜか名前が与えられていない。
飼い犬にだってラフマニノフという立派な名前がついているのに。
1巻目は、茅島氏の庭師の口説き方編。
御曹司は誰にも真似のできない大胆な行動を取られて、雇い主に愛されているなどと夢にも思っていない庭師(東大法学部卒!)を一発で落とす。
まさに「
必殺」というかんじ・・・。
「アンチリアリズム」という遠野さんの真価が存分に発揮されていて、10年前の作品であることも何の問題もない。
これから2巻、3巻と続きが出る予定。
それを全部読んだとき、庭師に名前がない理由がわかるのだろうか・・・楽しみ。
『茅島氏の優雅な生活1』麻々原絵里依/遠野春日 芳文社2009年
同時に出たコミック版も、原作に忠実かつ原作の魅力を生かしている。
茅島氏の美しさと可愛さをビジュアル化しているのがよい。